何事においても、それを本当に身に付けるためには
自分で試行錯誤することが大切です。
武道・武術においても、技のやり方を教えてもらうだけでは
身に付かず、稽古を通して自分で試行錯誤することによって、
はじめて技が身に付きます。
このこと自体は疑いようのないことですが、武道・武術においては、
ここで注意しておかなければいけないことがあります。
それは、その試行錯誤している内容が
習っている流派の教えと一致しているかということです。
試行錯誤は、自分の技をより良くするために行っているのであり、
その流派の教えと違うことをやるはずがないと考える方もいるかと思います。
ですが、私が今まで稽古を続ける中で出会った人の中には
その流派の教えと違うことを一生懸命稽古している人がいましたし、
一時期は私自身もそうでした。
20年程前、古武術ブームというのがあり、
書籍やテレビ番組で古武術で使われている
身体操作をよく紹介している時期がありました。
当時、武道をはじめたばかりの私は上手くなりたい一心で
それらの書籍やテレビ番組を見て、稽古に励んでいました。
その当時は、私も経験が浅かったこともあり、
紹介されている身体操作は全ての武道・武術に
共通するものだと思っていました。
ですので、その共通する身体操作を身に付ければ、
自ずと上達出来ると考えていたのです。
確かに武道・武術には共通する身体の使い方もありますが、
それは一つではなく、何パターンもあります。
その違いが流派・会派の特色となっており、
全ての流派・会派に共通するものというものはありません。
そのため、書籍やテレビ番組で紹介されている身体操作を
一生懸命稽古した私は、習っている流派の教えている
身体の使い方とは違うものを身に付けてしまい、
上達の妨げとなる癖をつけてしまいました。
また、ある私の知人は、このような失敗をしていました。
相手の手を引く場合、身体で引くという説明を聞くことがあります。
人により説明は違い、自分の体重を使うと言われたりもします。
これをやろうとした場合、何も知らない人が行うと
自分の身体を固めて、自分の体重を重りのようにして使って
相手の手を引くこととなります。
私の知人は、書籍やテレビ番組で自分の体重を使って崩すという説明を聞き、
上記の自分の身体を固めて使うというように理解しました。
そのようにして身体を使って、相手の手を引き、
体勢を崩すということをやっている流派もあると思いますし、
そのやり方が問題ということではありません。
しかし、私とその知人が習っている流派では、身体を固めることしない
身体の使い方で相手を崩す方法を教えていました。
そのため、その知人は身体を固める使い方を覚えてしまったことが
上達の妨げとなっていました。
紛らわしい話ですが、通っている道場で稽古する際にも
同じように身体で引くという説明を受けていましたが、
その説明をしている上級者は身体を固めずに
身体で相手の手を引くということをやっていました。
説明は同じでも、実際にやっている内容が違っていたのです。
人はどうしても、自分の出来る方法やその時の理解の及ぶ範囲でしか、
言葉を捉えることが出来ません。
この知人の失敗の原因は、自分の理解に疑いを持たず、
そのまま突き進んでしまったことです。
安易に分かったと思わず、習っている流派の技の理合と照らし合わせるか、
上級者の身体の使い方を観察していれば気づけたのではないかと思います。
今の世の中だと、何にでもHow to 本がありますし、
Youtube等でも解説している動画があります。
悩んでいることがあれば、そのやり方を簡単に調べることが出来ます。
これは本当にありがたいことですが、
すぐにその情報に飛び付くことは出来ません。
それぞれの武道・武術により、求める構えや姿勢は違いますし、戦術も違います。
同じ名前の流派でも会派が別だと違っていることだってあります。
より良いやり方を常に模索するというのは大事ですが、
その流派の教えている内容と合致していなければ
技がおかしくなるだけで意味がありません。
今の時代だからこそ、惑わされやすい状況になっています。
私達と同様の失敗をされないよう、注意していただければと思います。
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